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火入の技術
第11話

火入の技術

ここ2~3年、火入について研究中です。以前このコラム(第7話)で「今のところの実験結果では1.8Lびん貯蔵に較べ、タンク貯蔵は品質差がないか、逆に優れていると考えられる」と書きましたが、今回はその訂正も含めて書いておきたいと思います。

前回の実験以降も「びん火入」と「タンク火入」について差が生じるものか、度々実験・きき酒をやってきました。やはり経験的に何かが違うのではないかと感じていたからです。
前回は生酒段階で少量の炭素濾過をかけたレギュラー酒について「びん火入」と「タンク火入」の差をきき酒した結果でした。
そこでその後、香味の濃い純米酒について炭素濾過なしでやってみることにしました。

私の予想では「あまり違いはないだろう」というものでしたが、実際にきき酒してみた結果、ほぼ全員のパネラー(きき酒をした人)の一致で「びん火入」に軍配が上がったのです!
今の流れからいくとそんなこと当然と言われそうですが、へそ曲がりの私は自分で体験したことしか信じない人間でして、ようやくこの時からあらためて「火入技術」について考えるようになったのです。

私は単純にすべてを「びん火入」にしようとは思いませんでした。いったい何が「タンク」と「びん」で違うのかしっかりと突き止めたいと思ったからです。
また「当たり前に造る酒」が品質上大事であると考える当蔵では、人力的に負担のかかる「びん火入」を極力避けたいと思っているからです。

まず考えられるのは冷却スピードです。「びん火入」は熱処理後にも単位が小さいためすぐ冷えますが、「タンク火入」は水をかけても数時間かかります。
そこで火入後すぐに冷却するための熱交換器を導入、約1分間で60~70℃の加熱後、数秒で一気に30℃まで急速冷却するものです。

また、ならば加熱ボトリング後の冷却もしっかりとやろうということで、ボトルクーラー(ボトリング後シャワー冷却するもの)を導入、ワンカップに至るまで全品を急速冷却するようになりました。

結果、すべての酒は香りの鮮度が良くなり、よりはっきりとした輪郭を持つ酒質へと向上する事になりました。独りよがりでない事はお客様の評価やコンテストの評価、そして売上を見れば明らかです。
私の感覚では「びん火入」を100点とすると急速冷却の「タンク火入」は85点、そうでない「タンク火入」は60点といったところに評価しています。

あと15点を埋めるために何が必要か、冷却スピード以外の部分については今後、毎年少しずつ解明して商品に反映していくつもりです。こういった部分だけをみても、まだ「水尾」の品質は上げられる、これからだと思っています。

「火入」は日本人が世界で最初に行なったパストライズの技術です。さらに高い技術の「火入」の開発・実用化は日本酒を新しい世界へと導くものになると感じています。

(社長 田中隆太)