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素敵な日本酒の飲み方
第10話

素敵な日本酒の飲み方

伝統的に和食に素焼きの徳利と杯で飲む日本酒のスタイルは、居酒屋さんでも最も一般的ではありますが、ここ20年くらいは一升瓶からテッパ式に一合程のグラスと受け皿に冷やで注いでいただくというスタイルもすっかり一般的なものになりました。
空のグラスが木枡に入って出てきてそこに一升瓶からやはりこぼして注ぐなんていうのも良くあるスタイルです。
しかし残念ながらそれだけでは日本酒の飲酒スタイルは、現在の時代のなかで相対的に見て充分なものでないと私は考えています。

居酒屋で見る、日本酒の器

現代では、アルコール飲料だけでなく普通の飲料もグラスで飲むのが一般的です。
ところが居酒屋さんで生ビールはビールジョッキ、チューハイ・カクテル類もガラスの背の高いグラス、ワインはワイングラス、ウィスキー・バーボンも専用グラスで出されるなかで、日本酒だけはなぜか素焼きの徳利と杯のことが多い。焼酎のお湯割ですらグラスで供されるというのにです。
それゆえ居酒屋のテーブルの上で最も背が低く目立たず、最も低価格であろう器が日本酒の器であることが多いのです。なんだか日本酒だけ仲間ハズレみたいに見えるんですよね。注文にも勇気がいります。

しかも乾杯! なんていった時にはおっとっとこぼれそうなんてなりながら、控えめに乾杯するのが日本酒です。
テッパ式はグラスでありますが残念! 口元まで並々と注がれているためこれもスムーズに乾杯はできません。
日本酒業界では「日本酒で乾杯運動」というのを推進していますが、「チョット無理…」とか言われそうですよね。

初対面の女性とデートなんて時にも向きません。
徳利と杯では「まだそこまでの関係ではないでしょう」とか「古臭い人ね」とか思われそうだし、ナミナミと注がれたテッパ式の酒にいたっては、女性はどのように最初のひと口を飲んだら良いのか大いに悩むと思います。
まさか犬のようにグラスに口を近づけていってススルなどとは、考えただけでも笑えます。

日本酒の器は進化している?

でもそんな飲酒スタイルしか一般的になっていないのが日本酒なのです。もちろん私も伝統的な徳利に杯のスタイルが、おしなべて悪いと思っているわけではありません。
緑や紅葉の庭を眺めながら、伝統的な懐石料理と一緒に上質な焼物の杯を静かに傾けるのもとても素敵な事ですし、グラスをチャリンと合わせ大声で叫ぶばかりが乾杯ではなく、杯を掲げて静かに目を交わす乾杯も美しいと思います。

和の着物が美しいのは当然ですが、現代の人は普段着に着物は着ませんよね。街中でざっと見渡しても着物を着ている人はほとんど見かけません。
どのような街の雑踏のなかでも不似合いでも和の着物にこだわる人の姿、そして居酒屋さんで出されるかたくななまでの徳利と杯姿の日本酒、この2つの姿を私は重ね合わせてしまいます。
要はTPOが重要であると思うのです。

一方、テッパ式は立ち飲みで簡単に安く飲む方法から考えられたグラス提供のやり方を、逆説的に20年前ぐらいから居酒屋さんなどでオシャレな方法として提案してきたもの。
いい線に来ていたのですがそこから進化がなかったと私は考えています。袴からズボンにはなったけれど、スーツにはならなかったといった感じでしょうか。結構普及しているいわゆる「清酒グラス」のスタイルも残念ながら「スーツ」には至っていません。
これは日本酒業界の問題で、やはり時代に応じたオシャレな飲み方の提案をもっとしてこなければいけなかったと反省しております。

通常の現在ある一般的なガラスの器で現代の日本酒を飲むのに、ベストではないけれど最適なのは残念ながらワイングラスではないかと思っています。
でもワイングラスに注いだ日本酒は白ワインよりもクリアな色を持ち、香りの上質さは良いワイン同様で、しかもその味わいはその見かけのクリアさからイメージする通り、和的であり純粋であります。
その味にふさわしい、和の雰囲気を醸しながらももっと現代のスタイルに合った器が日本酒には必要であると考えています。

(社長 田中隆太)