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醸造用水について
第1話

醸造用水について

水尾のこだわりについて語るには、やはりまず水について語らねばなりません。なにせ「水尾」の名前もその水の湧く山の名前だし、そもそも「水尾」のはじまりがそこにあるからです。

平成2年に私が東京での研修を終え、蔵にはいってから最初に研究したのが水でした。それまで使っていた井戸水の水質が硬すぎるため、吟醸酒等の製造には不向きだと分かったからです。

最初は水の「加工」から

そこでまず、水の加工を検討しました。
これは最近では家庭でも使っている浄水器のようなものを使って水をろ過する方法です。半導体を洗うための水の製造装置を作っている某会社より専門家を呼んで加工の方法を試してみました。ところが、何度試しても水の加工はうまくいきません。
水の加工は、一部の大きな成分だけを取り除くか、すべての成分を取り除いて純水を作るかの2つの方法しかなく、なかなか酒造りにベストな水質を作ることが出来ないからです。苦労しながら、何度も蔵に足を運んでくれたその専門家の一言が後に「水尾」を生み出す事になりました。

「しかし田中さん。どうして田中さんはこの山紫水明の地でこんなに水に苦労しなければならないのですかね」

確かにそうです。少し山あいに行けば、様々な良水が湧き出るこの地方にいながら、水に苦労するというのはおかしな話です。
蔵を移動する事は無理でも水を汲んでくる事は可能じゃないかと考えました。そこで当時の社長に相談したところ「酒造りは道楽じゃない。そんな大量の水を運搬してもコストが合わない」との厳しい一言。
それでもやってみなきゃ分からない、吟醸酒だけでもやろうという事で説き伏せて水を探しに出かけました。

良水を求めて

地元でも話題になっている清水や社長の持っている山の湧き水など思い当たる様々な水を汲み歩きテイスティングし、分析もかけました。おそらく運が良かったのでしょう。数ヶ月で結果が出ました。
テイスティングテストでも分析結果でもダントツに一番の評価だったのが現在使用している「水尾山」の湧水です。
飲んで甘さを感じるほどの軟水、酒造りに無駄な成分はまったくなく、そして必要最小限の発酵に必要な成分を含む、まさに未来の酒を造るにふさわしい名水に、私はすっかりほれ込んでしまいました。
水源を持つ地元の方々にもこころよく承諾をいただき、水を分けていただける事となりました。

その年は吟醸酒、純米酒のみこの水で造りましたが結果がとても良好で、水汲み作業も何とかこなせる事が分かったため翌年より仕込みの全量にこの水を使用するようになりました。
こうして平成4年、その山の名を由来に日本酒「水尾」が生まれる事になります。今では年間にのべ150回くらい、片道15km北の水尾山のふもとまで行って、水汲みを行っております。

水尾の共通の特徴である、さわりない後味の良さは、この水の性質によるところが大きく関わっています。「水」は人の手では造ることができない、貴重な土地の財産であり個性であると思います。

(専務 田中隆太)