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日本酒の賞味期限
第8話

日本酒の賞味期限

日本酒には製造年月が記してありますが、賞味期限はあまり記してありません。いつまで飲めるの? というご質問を良くいただきますので、ここでお答えしておきたいと思います。

まず、飲んで身体に害があるかどうかというレベルで「飲めるか」ということになると、開栓しなければ100年経っても飲めない酒はありません。生酒などは再発酵して酢になることはありますが、酢ですから身体に害はありません。

次に、おいしく飲めるかというレベルで「飲めるか」という話です。これはそれぞれの蔵元の考え方やびん詰めするまでのお酒の処理の仕方にもよると思います。
たとえば熱処理した商品では、月〇冠さんなどは製造年月より1年間を賞味期限としていますし、私どもはおおむね6ヶ月と説明しています。
生酒などは賞味期限の考え方がもっと難しく、技術者的な立場から見ると鮮度の良さが崩れない限界は搾ってから3週間位ですが、消費者的な立場から見ると、冷蔵庫で3年寝かしてから飲むマニアの方も多くいらっしゃいます。

要するにどこまでが熟成で、どこからが劣化なのかを判断するのは日本酒の場合、基本的に難しいということなのです。
蔵元が説明する賞味期限はあくまでも蔵元が考える酒の味の範囲に収まるための期限ということになります。それ以上熟成させたほうが好きというお客さんももちろんいると思いますし、それはそれで正解なのです。

そんな前提にたった上で、さらにお話をしたいと思います。

日本酒の熟成は温度によって大きく変わります。
5℃の冷蔵庫で保存しておいたなら熱処理商品であれば1年たってもおいしく飲むことができます。
逆に夏前に買ったお酒を日中30℃にもなる部屋で1ヶ月も置けば2~3ヶ月分の熟成は進んでしまうと考えられます。

また、ワインと同じように急激な温度変化により味が変わりやすくなり、昼は30℃、夜は20℃などというのも劣化を進める原因になります。
同じ30℃から20℃に落ちるにしてもゆっくりと何ヶ月もかけて落ちていく場合は思ったほど劣化はしないようです。
押入れのなかに忘れられていた1年前の酒が色は変っていても味は丸くなりおいしくなっている場合があるのは同じような理由によるものと思います。

大吟醸酒を20℃以下の低温庫で5年貯蔵した商品を販売したことがありますが、味わいにはやや熟している程度で、10年寝かせても良さそうなくらいでした。

日本酒は発酵食品のひとつであり、先人の英知が詰め込まれた偉大な長期保存食品のひとつです。その熟成や味わいは普通の食品の判断とは違い、飲んでみておいしいかどうかということに尽きると思います。

もし飲まないお酒がありましたらぜひ、なるべく低温で、温度変化の少ない、日のあたらない場所に置いておいてください。半年後にはこの世でひとつしかない貴重なお酒に育っているかもしれません。

(社長 田中隆太)