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酸化を防ぐ
第8話

酸化を防ぐ

また貯蔵設備の話になります。
日本酒が劣化する原因は次の3つです。

  1. 酸素による酸化
  2. 温度による劣化
  3. 光(紫外線)による劣化

タンクで原酒を貯蔵する場合、光は心配いりません。温度に関しては前回お話したとおり、冷蔵設備を導入しましたので解決されました。

しかし、酸化に関しては今まで妥協してきた部分ではありました。もちろん酸化も適度に行われる分には良い熟成の要因となるものですし、悪いばかりではありません。
でも、それをコントロールできず、自然に任せておくというのは商品の品質の安定度からいうと好ましい事ではありません。

大きなタンクに酒を貯蔵していくわけですが、その酒は1年を通じて少しずつびん詰めされ出荷されていきます。酒が出された分、タンクの酒の上部には空寸が出来て、ここに含まれる酸素の量も増えていきます。空寸が大きくなればなる程、酸化のスピードも速くなるというわけです。

昔は酒の品目も多くなくタンクを順番に使っていけば良かったので、手をつけたタンクはしばらくのうちに空になってしまったから良かったのですが、今は品目が多く、それぞれ手をつけないといけないことになってしまい、それぞれのタンクに空寸が出来てしまいます。

酒の指導機関からは「できるだけ1回~2回のびん詰めで使い切ってしまう大きさのタンクにしてください」と言われますが現実的には今の需要に合わせていったら、私どものような小規模メーカーは小さいタンクを相当な数量準備しなければならず、設備投資費用・貯蔵スペース・作業性の面でたいへん非効率なことになります。

最近のはやりではタンクに貯蔵せず1.8Lびんにすべて詰めてしまうやり方が主流です。1.8Lびんに詰めてしまえば空寸の心配がなくなるのがひとつの理由です。
しかし、私どもの蔵ではスペースの関係、そして今のところの実験結果では1.8Lびん貯蔵に較べ、タンク貯蔵は品質差がないか逆に優れていると考えられる為、ロスの少ないタンク貯蔵の方法で酸化を防ぐ方法を考えました。

*貯蔵と火入れについて追加のお話をアップしました。こちらも合わせてご覧ください
第11話「火入れの技術」

結果採用したのが、窒素ガスを空寸に充填する方法です。酒を熱処理してタンクに収めた後、空寸に残った酸素を窒素ガスを後入れする事で置き換えて追い出してしまいます。
酒を出すときには出す分だけ上から窒素ガスを入れるといった具合です。窒素ガスは酒に入れるわけではないのですが、一応食品添加用の物を使います。

ワインの貯蔵では早くから窒素ガス充填は行われていると聞いていますが、酒の業界ではまだまだここ最近のことのようで、窒素ガスをタンクに取り付けるための器具が良いものがありません。業者から提案をいただいたり、自分で丁度いい無菌フィルターを探したりしました。

昨年度は冷蔵貯蔵の酒について窒素ガス充填を行ってみましたが、結果が良かったので、今年は低温庫(20℃以下)貯蔵のタンクにも採用してみようかと思っています。
新たな熟成の可能性があるのではないかと思っており、数ヵ月後に味を見るのがたいへん楽しみです。

(社長 田中隆太)