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水尾のこだわり


第12話  地米を使った酒造り その2

前回「地米を使った酒造り」を書いてから、もう5年の月日が流れました。弊社のその部分に対する取り組みもさらに進んだ形になってきましたので、ご報告しておきたいと思います。

造りに100%長野県産酒造好適米を使うというところは以前と変ってはおりませんが、現在使用しているのは「金紋錦」、「ひとごこち」、「しらかば錦」の3種類のみとなりました。原料米が微妙に変ったのは、良い酒が出来た米に少しずつ変えていった結果です。現在は使用している「ひとごこち」のほとんども地元飯山産の契約栽培米となり、なんと全使用原料米の70%以上が蔵の所在地から5km圏内で栽培されている酒造好適米となりました。

実は弊社では20年前は上位酒の僅かしか酒造好適米を使っていませんでした。当時は「加工用米」といって農家さんから安く出していただけるお米をたくさん使用しており、品種は完全には明らかでなかったですがその大半は「とどろきわせ」や「こしひかり」であったと聞いております。酒造業を長く続けるということはかっこ良いことばかりではなく、時代や蔵の置かれた環境に応じた経済性も重要だと思っておりまして(良い米を使ってもやっていけなくなればそれまでですから)、簡単に一足飛びにはすべて値段の良い酒造好適米に替えるなどということは出来なかったのです。

もちろん使える米の範囲で最高のものを造ろうと常に努力はしてきましたが、徐々に良い米を使うようになりながら実感したのは、「良い米でなければ、もう1ランク上の香りと味を出す良い酒は出来ない」と言う事です。そういう実感の中でお客様の評価もいただきながら徐々に良い酒が売れるようになり、それによって良い米も使えるようになってきました。今そこそこに満足いく形で良い米が使えるのは、「水尾」を支えていただいているお客様や、お米を作ってくれる農家の皆さんのおかげであり、その昔から考えると夢のような環境だと感謝しております。

5年前の「地米へのこだわり」はまだ私の「勘」みたいなもので、「ここでなければ造れないものを造る」というポリシーでした。ポリシーは大切なものですし現在も変ってはおりませんが、それによって実際にクオリティーの高い味が生まれなければ酒は売れませんし、世に出した時に「なんだこんな程度か」で終わってしまうと思います。特A規格の「コシヒカリ」を作るこの地でできる酒造好適米は、個性的でなおかつクオリティーの高い酒になるという当時の私の「勘」は、現在は「確信」に変りつつあります。「山田錦」にはかなわないとか、「ひとごこち」は飯山では良いものはできないとか言われながらも勇気を出して(実はけっこうびくびくしながら)取り組んできた事は無駄ではなかったと嬉しく思っています。

蔵のまわりで作る酒造好適米は、農家の方との話し合いによりもっともっと良いものへと進化していくことができるでしょうし、その可能性は無限にあると思っています。おごることなく実際に良い酒を造り続けていく事が、これからも弊社のポリシーを世に示し、「水尾」とこの地の価値を世に示す唯一の方法であると思っています。

(2010.8.5)

第11話  火入の技術

ここ2〜3年、火入について研究中です。以前このコラムで「今のところの実験結果では1.8Lびん貯蔵に較べ、タンク貯蔵は品質差がないか逆に優れていると考えられる」と書きましたが、今回はその訂正も含めて書いておきたいと思います。

前回の実験以降も「びん火入」と「タンク火入」について差が生じるものか、度々実験・きき酒をやってきました。やはり経験的に何かが違うのではないかと感じていたからです。前回は生酒段階で少量の炭素濾過をかけたレギュラー酒について、「びん火入」と「タンク火入」の差をきき酒した結果でした。そこでその後、香味の濃い純米酒について炭素濾過なしでやってみることにしました。

私の予想では「あまり違いはないだろう」というものでしたが、実際にきき酒してみた結果、ほぼ全員のパネラー(きき酒をした人)の一致で「びん火入」に軍配が上がったのです!今の流れからいくとそんなこと当然と言われそうですが、へそ曲がりの私は自分で体験したことしか信じない人間でして、ようやくこの時からあらためて「火入技術」について考えるようになったのです。

私は単純にすべてを「びん火入」にしようとは思いませんでした。いったい何が「タンク」と「びん」で違うのかしっかりと突き止めたいと思ったからです。又、「当たり前に造る酒」が品質上大事であると考える当蔵では、人力的に負担のかかる「びん火入」を極力避けたいと思っているからです。

まず考えられるのは冷却スピードです。「びん火入」は熱処理後にも単位が小さいためすぐ冷えますが、「タンク火入」は水をかけても数時間かかります。そこで火入後すぐに冷却するための熱交換器を導入、約1分間の60〜70℃の加熱の後、一気に数秒で30℃まで急速冷却するものです。

又、ならば加熱ボトリング後の冷却もしっかりとやろうということで、ボトルクーラー(ボトリング後シャワー冷却するもの)を導入、ワンカップに至るまで全品を急速冷却するようになりました。

結果、すべての酒は香りの鮮度が良くなり、よりはっきりとした輪郭を持つ酒質へと向上する事になりました。独りよがりでない事はお客様の評価やコンテストの評価、そして売上を見れば明らかです。私の感覚では「びん火入」を100点とすると急速冷却の「タンク火入」は85点、そうでない「タンク火入」は60点といったところに評価しています。

あと15点を埋めるために何が必要か、冷却スピード以外の部分については今後毎年少しずつ解明して商品に反映していくつもりです。こういった部分だけをみても、まだ「水尾」の品質は上げられる、これからだと思っています。

「火入」は日本人が世界で最初に行なったパストライズの技術です。さらに高い技術の「火入」の開発・実用化は日本酒を新しい世界へと導くものになると感じています。

(H21.01.26)


第10話  「伝統」と「進化」

 よくある説明ですが、「昔ながらの造りでていねいに造る」という言葉で私もたびたび蔵の方針を説明します。実はこの「昔ながらに」というところに深い意味があるのですが、普段は長くなるのであまりそれ以上深く説明することはありません。それは今回のタイトルにある通り、「伝統」と「進化」をどのように捉えているかと言うことに関係します。

 伝統に基づいたものというとそれだけで非常に価値のあるものと捉えられがちですが、私はそう単純には考えておりません。伝統のすばらしいのは「改良」が繰り返し重ねられてきたことで、その価値が磨き上げられているということだと思っています。ですからすばらしい伝統であればあるほど、現在もその価値を磨き上げ改良する努力が引き続き行われていると思っています。いわば「伝統」=「完成されたもの」ではなく、「伝統」=「磨き上げ続ける過程」だと思っています。

 江戸時代の日本酒と現在の日本酒は、その米も造り方も仕込配合もアルコール分も甘さもまったく違うものだと分かっています。大きな時代の変化の中では、現在の日本酒の形というのはまさしく時代の中で時代に対応したより良い形へと変化してきたものだといえます。しかし、短い時代の中で見ると、日本酒は戦後高度経済成長の中でどちらかというと大量生産の合理化による品質向上を目指してきました。そして現在ではその流れが限界に達しています。さらに「進化」をしたいと思ったら、もう一歩踏み込んだ時代への対応が必要になってきていると思います。
 私は、「昔ながらの造りで」という言葉はイコール「伝統に基づいて」という意味で、すなわち「悪いやり方を廃し、良いやり方をしっかりと残していく」事の継続作業だと考えています。ただ、何が悪くて何が良いかの判断は、蔵によって違うでしょうし、答えはこれからの長い時代が出してくれることだと思います。

 その「答え」に迷った時に、私がたよりにしているものがあります。それは「人の笑顔」です。現在売上として伸びている伸びていないとか、利益としてどれだけ貢献しているとか、世の中の流行がどうとかいうのは、経験上あまりあてになりません。自分も含め、その酒を飲んだときに人がどんな表情をするか、どんなニュアンスで言葉を発するかのほうがとても重要です。「水尾」を飲んで自然な笑顔で「おいしい!」といってもらえた時、これほど確かな未来への指標はないと思っています。

(H21.01.26)

第9話 『良酒醸和』(りょうしゅわをかもす)

『和醸良酒』
(わじょうりょうしゅ)とは、誰がつくった言葉なのでしょうか。最初聞いたのは有名な醸造マンガの様な気がしますが、それもどこかからの引用かもしれません。

 意味は「人の和が良い酒を醸す」というのが、一般的な解釈だろうと思います。酒造りというのは杜氏1人の力で決してできるのもではなく、並行して行われる作業と交替勤務の中で、それぞれの蔵人がそれぞれの役割をきちんとこなして、又、こなす以上に杜氏と同じ考えと責任を理解して酒造りにたずさわった時に可能になると考えています。

 そういう意味で、確かに、人の和が良い酒を造るのだと言えると思います。
和によって、良酒が醸される。でも、その和はどうやって造るのでしょうか?

 私が蔵に戻ってきてから、水尾山への水汲みをはじめた頃、社長(今の会長)の反対を無視して、昼休みに自分で水くみに行っていました。吟醸造りでは、杜氏とけんかしたり、社員ともいざこざ。それは「和醸良酒」どころではない。心にあるのは、「良い酒を造らなければなにもない」 という強い思いでした。 

その年の4月、水尾山の水で作った酒が、今までとれなかった鑑評会の賞をとりました。喧嘩していた、杜氏と苦虫をつぶしたような顔で握手をしました。この時から何かがかわって、すべての人の和がみるみるうちに出来上がっていった様な気がします。


 「良酒和醸」(りょうしゅわをかもす) と その後、思ったものです。良い酒は和を醸す。そして、和が、また良い酒を醸す。このくり返しが、今の「水尾」の品質をささえていると、今ははっきりと言う事ができます。

 良い酒は、良い造り手と作り、良い売手を集め、良いお客様を集めます。そして、その人たちの和が、また良い酒を造り出すエネルギーになるのだと思っています。
(H19.8.16)

第8話 酸化を防ぐ

また貯蔵設備の話になります。

日本酒が劣化する原因は@酸素による酸化A温度による劣化B光(紫外線)による劣化の3つです。タンクで原酒を貯蔵する場合、光は心配いりません。温度に関しては前回お話したとおり、冷蔵設備を導入しましたので解決されました。

しかし、酸化に関しては今まで妥協してきた部分ではありました。もちろん酸化も適度に行われる分には良い熟成の要因となるものですし、悪いばかりではありません。でも、それをコントロールできず、自然に任せておくというのは商品の品質の安定度からいうと好ましい事ではありません。

大きなタンクに酒を貯蔵していくわけですが、その酒は1年を通じて少しずつびん詰めされ出荷されていきます。酒が出された分、タンクの酒の上部には空寸が出来て、ここに含まれる酸素の量も増えていきます。空寸が大きくなればなる程、酸化のスピードも速くなるというわけです。

昔は酒の品目も多くなくタンクを順番に使っていけば良かったので、手をつけたタンクはしばらくのうちに空になってしまったから良かったのですが、今は品目が多く、それぞれ手をつけないといけないことになってしまい、それぞれのタンクに空寸が出来てしまいます。

酒の指導機関からは「できるだけ1回〜2回のびん詰めで使い切ってしまう大きさのタンクにしてください」と言われますが現実的には今の需要に合わせていったら、私どものような小規模メーカーは小さいタンクを相当な数量準備しなければならず、設備投資費用・貯蔵スペース・作業性の面でたいへん非効率なことになります。

最近のはやりではタンクに貯蔵せず1.8Lびんにすべて詰めてしまうやり方が主流です。1.8Lびんに詰めてしまえば空寸の心配がなくなるのがひとつの理由です。しかし、私どもの蔵ではスペースの関係、そして今のところの実験結果では1.8Lびん貯蔵に較べ、タンク貯蔵は品質差がないか逆に優れていると考えられる為、ロスの少ないタンク貯蔵の方法で酸化を防ぐ方法を考えました。

結果採用したのが、窒素ガスを空寸に充填する方法です。酒を熱処理してタンクに収めた後、空寸に残った酸素を窒素ガスを後入れする事で置き換えて追い出してしまいます。酒を出すときには出す分だけ上から窒素ガスを入れるといった具合です。窒素ガスは酒に入れるわけではないのですが、一応食品添加用の物を使います。

ワインの貯蔵では早くから窒素ガス充填は行われていると聞いていますが、酒の業界ではまだまだここ最近のことのようで、窒素ガスをタンクに取り付けるための器具が良いものがありません。業者から提案をいただいたり、自分で丁度いい無菌フィルターを探したりしました。

昨年度は冷蔵貯蔵の酒について窒素ガス充填を行ってみましたが、結果が良かったので、今年は低温庫(20℃以下)貯蔵のタンクにも採用してみようかと思っています。新たな熟成の可能性があるのではないかと思っており、数ヵ月後に味を見るのがたいへん楽しみです。
(H19.1.9)

第7話 できたての風味を生かす

料理でも風味を生かす料理をするのに手順が大事であるように、お酒の製造も手順が重要です。搾りたての生き生きとした風味を生かすにはタイミング良い作業が必要ですが、次のような問題があります。

@お酒は搾られた直後は全て生酒です。生酒の状態では風味は安定せず、冬場の低温でもどんどん酒質は変っていきます。風味を安定させるには、早めに熱処理をしてしまう事ですが、搾った酒を順次、タイミング良く熱処理するという作業は非常に手間がかかります。

A熱処理した後のお酒は、今度は逆に早く冷やしてしまわなければなりません。料理でもゆでた材料をすぐに水にさらす事があるように、熱をかけっぱなしだと風味を壊してしまうのです。急速冷却するにはそれなりの設備が必要となり、コストがかかります。

B冷却した後の酒は長い貯蔵期間に入ります。蔵の中で常温貯蔵した場合、通常の酒は半年ほどで老香(ひねか)と呼ばれる劣化臭がのってきます。あえて老香を良しとして出荷する場合もありますが、通常の酒の場合はこの老香を除去するために、出荷前に活性炭濾過を行ないます。しかし、活性炭濾過により、搾りたて後の豊かな風味も低下してしまいます。

さて、@〜Bの問題をクリアするために、当蔵は毎年少しずつ取り組んできました。

まず@についてですが、仕込みの順序から搾った後の熱処理までの工程を計画的にスケジュールすることにしました。以前は仕込みのスケジュールのみを立てていたのですが、そうするとどうしても熱処理のタイミングが後回しになってしまっていたからです。

Aについては、何年かかけて冷却設備を整えてきました。設備投資もかかりましたが、それ以上に品質的な面では格段にアップしました。

Bについては、かなり実験的ではありましたが、これも大きな投資をしました。タンクが丸ごと数本設置できる、大型冷蔵倉の導入です。これにより老香を発生を抑えることができ、したがって、活性炭濾過も不要となったのです。(ただし、冷蔵貯蔵の製品は特別本醸造クラス以上のみですが。)

特にBの設備は飛躍的に酒質を向上させるものとなっています。

このように、できたての風味を生かすためには、様々な工程での注意が必要となります。しかし、ここに述べた事以前に、搾った直後の酒が良質に出来上がっていることが大前提であり、それにはさらに様々な工夫と管理と経験が必要です。良い酒造りは一つ一つの良い仕事の幾重もの積み重ねで出来ているのです。


第6話 地米を使った酒造り
地酒とは何か?地酒としての価値とは何か?と考えた時に、やはり米も極力、地元産にこだわりたいなと考えました。今は流通の発達した時代ですから、手に入れようと思えば、兵庫県産山田錦や雄町、新潟産五百万石など良いといわれる米は手に入ると思います。しかし地酒である限りは、地の材料をつくして、それでなければ出せないような味を出す事こそ価値があると思います。

長野県産の指定酒造好適米は現在、4種類。美山錦、しらかば錦、ひとごこち、金紋錦です。当蔵では今期の造りでは、美山錦、しらかば錦、金紋錦を使用、100%県内産酒造好適米を使用ということになりました。

特に、金紋錦に関しては当蔵のまさしく地元である木島平村のみで栽培されている希少品種で、入手困難な限定流通米だったのですが、交渉の末、昨年から安定的に確保できる見込みとなった酒米です。このお米で造ったお酒は本当の地元産の地酒といっていいと思います。

現在、美山錦、しらかば錦に関しては長野県産では有りますが、残念ながら本当の地元産というところまでは至っておりません。これらについても、一部、地元JAさんらと協力して、さらに地元で酒造好適米を栽培しようと計画中です。

昔は夢のような話かと思っていましたが、地元酒米の話が上記のように進んできております。地元の田園風景の中で実ったお米で酒を造るということは、蔵元にとってとてもロマンを感じることなのです。

(H17.6.xx)

第5話 地元蔵人による酒造り
 杜氏にも地域があり、東北から来る南部杜氏、新潟は越後杜氏、長野では諏訪杜氏、小谷杜氏などが有名ですが、ひっそりとですが、けっこう多くの人数を擁している飯山杜氏というのがいます。飯山・中野はもちろん、長野・須坂なども含め、北信地域の酒蔵ではかなり活躍している杜氏さん方が飯山杜氏会に属しています。


私共の蔵も、もちろん飯山杜氏、それもバリバリの地元で車で10分くらいの所に住んでいます。夏は農家をやり、冬は蔵人となる由緒正しい(?)蔵人の形を守っています。それでもゆくゆくは冬だけ蔵人として働くという形も少なくなってくるだろうということで、蔵人の仕事の中にも一部通年雇用の社員を配置するようにしています。

しかし社員も極力地元の人間、それも蔵から近くに住める、生活できる人を選んで採用しています。なぜかといいますと、地元の人間でゆったりと酒造りをしたいと考えているからです。


昔は私共の蔵でも7人からの蔵人が11月半ばから3月まで130日間にわたり、ずっと泊り込みで働いていたそうです。家族とも会えず今でいう単身赴任の形ですから、けっこう大変な事だったろうと思います。しかし今は交替で1名泊まるだけで朝6:30にもう1名が出勤してきて2人で朝の仕事を片づけるという体制になっています。もちろん昔ながらに長期にわたり泊り込みで行なう酒造りがいけないとは言いません。職人として責任を持って、素晴らしい芸術作品としての酒を造りあげる一つの方法だと思います。


しかし、私共の蔵が今の体制で行なっているのは、「あたりまえの人があたりまえに飲む酒」をめざす「水尾」としては造り手も「あたりまえ」の作業の中で、「あたりまえ」の生活の中で酒造りをしてほしいと思うからです。そしてそのゆとりの中からこそ「水尾」の酒の上質な部分が生み出されると信じているからです。


酒造りは一日24時間の中でポイントポイントを押さえた管理が必要です。どこか一ヶ所だけ力を入れればよいのと違い、24時間の中で重要なポイントが点在しています。例えば麹造りは手作業で行なう限り朝6:30から夜は10:00まで重要な手入れが点在します。そうなると生活の中で共にする形で、酒造りを行なわないとうまく行きません。日頃の生活の中に酒造りを組み込んでいくという意味で、地元の蔵人や社員による酒造りが理想だと考えています。


また、何がこの地元の「あたりまえ」なのかを知っている人でないと「水尾」は造れないということもあります。なぜなら、この地元の「あたりまえ」を酒の味として表現する事こそ、地酒としての「水尾」のオリジナリティーをだす事であるからです。


「水尾」を飲んだ人の心の中に、ここ奥信濃ののんびりとした風景や人々の顔が浮かぶようになれば、最高にうれしいなと思うのです。


第四話  脇役の酒「水尾」

 日本酒を飲むとき皆さんはどうやって飲んでますか?ご飯を食べる前に飲む人、食べながら飲む人、いろいろいると思います。私(専務)は食べながら飲む方です。どうも何かあてがないと寂しくて飲むことができません。たとえば塩辛ひとつでもいい、つまみがないと楽しく飲めません。でも、塩辛の替わりにハンバーグやクリームスープでもいけちゃいます。飲む酒は少し変えますが。


さて、日本酒は主役か、脇役か。どうも、香りの高い大吟醸酒に近ければ近いほど主役となり、香りの控えめの酒になればなるほど脇役となるようです。

 「水尾」の目指すところはひたすら脇役です。しかし、味のある、時には主役をくってしまいそうな脇役を目指します。ところがこれが難しい。なぜなら主役を取れない役者は世間からの評価も受け難いからです。そして派手にしすぎると終始主役をくってしまい、舞台を台無しにするからです。
 吟醸系の酵母と発酵力のある水で造った、飲み応えのあるドンとした酒は主役になります。一口飲んだ時は確かに美味しいと思うでしょう。しかし2杯目からはもうごちそう様となる、ステーキのような酒でもあります。 「水尾」 の目指すのはあくまでさわらない「水の如し」酒、料理の旨味を引き出しながら何杯でもすいすいと飲める、上等な白身魚のようなお酒です。

 それゆえ、「水尾」 は吟醸酵母ばかりを使うことを良しとしません。そして使う水は「水の如し」を実現できる軟水を使います。そして、酒は日常的なものであるべきというのが信念です。「あたりまえの人があたりまえに飲む酒こそ本当の地酒」 という考えのもと、派手でない中でいかに上質なものを追求できるかが勝負だと考えています。

(H14.12.2)


第三話  麹

 「一麹二もと三造り」と酒造りの世界では昔から、良い酒を造るのに大事な順番として言われています。「麹」はその、第一番目に来る要素。各蔵の酒の個性がこれによって決まってくるといわれるほと、重要な部分です。      

 朝8:30に蒸し上がった米を麹をつくる麹室(こうじむろ)という部屋に入れ、夜は10:00、朝は6:30かkら、寝食をともにして、48時間麹造りは行なわれます。造りのシーズンは、この作業を繰り返し毎日行ないます。現在では、大きなお蔵では、自動化された麹製造機を使ったりしますが、やはり大事な吟醸酒クラスとなると、昔ながらの木蓋や木箱を使った手造りの麹造りが行なわれます。どうやら、科学や機械の力ではどうしようもない部分が、酒にはあるようです。                                        

 「水尾」は、全商品が木箱による手造り麹。先ほども申し上げましたとおり、朝から夜まで生活を共にした、麹とのつきあいをやらないと手造りの麹造りは出来ません。大変ですが、酒の第一要素は、普通酒にいたるまで大事に行なうというのが「水尾」の方針です。又、麹米は、さらに高精白な吟醸以外は、普通酒にいたるまですべて美山錦の59%精米のものを使っています。少々贅沢な気もしますが、一般の方がのむ普通の酒にこそ最大の技術が払われるべきだという思いが、そこにはあります。                      

造りの時期は、朝6:30になると、栗香の高い、純白な麹がコンスタントに造り出されていきます。これは、決して機械にたよることなく、人が手をかけて忍耐強く造りだしたゆえのものであり、その思いが「水尾」の味に込められているのだと考えています。                                 

                                                                (H13.12.8)


第二話  原料処理

 料理でもなんでもそうですが、基本の処理というのはとっても大事です。水尾の造りの考え方は、常に基本に戻れです。原料処理に関してもどうやったら基本に(というか原理に)忠実にできるのかと言うことを考えています。

 大吟醸のお酒というのは、どのお蔵もみなさん力をいれます。これは「全国酒類鑑評会」というコンクールに出すための酒を造るからです。この時は、たいへんシビアに基本に忠実に酒を造ります。たとえば原料処理においても10kgずつアミ袋やザルで手洗いし、米が吸った水分量を0.1%刻みで計算して管理します。米を水につける時間などは、ストップウォッチで計り均一な水分管理を行ないます。

 しかし、上の方法ですと、一般のお酒になるとなかなかそこまでできないのが今までの現状でした。大量の処理を前提とした流れ処理式ですので、水分量を計算するかわりに目で見たり、手でつぶしたりして判断している事が多く、均一な水分管理は、たいへん難しい作業でした。

 水尾では、大吟醸で行なわれる事が、基本だという風に考え、そして、普通の人か、一般に飲むお酒こそ、最高の技術が払われるべきだと考えました。

 この結果考えた仕掛けが、お米を120kgずつ、チェーンブロックとつり袋を使って、米の処理を行なう方法です。考えは、大男が大きなザルを使って120Kgのお米を大きなボウルの中で一気に洗うという感じです。ザルで10kgずつお米を洗うのと同じ感覚を大きくしたもです。計量のため300Kgまで計れるデジタルのつり計りを一台買いました。仕掛けは単純なのですが、実行するのがたいへんで、米の処理を行なうのに、以前の方法の約1.5倍くらい時間がかかります。蔵の造りの単位が1500kg仕込みの小さい単位なのでできましたが、もう少し大きかったら1日で米洗いができなくなってしまうところでした。

 お米の処理の担当となる釜屋の鈴木さんは、毎日、首からストップウォッチを下げて、米の品種ごと、用途ごと、精米ごとに、きめ細やかな水分管理を行なってくれています。大吟醸と同じ0.1%刻みの水分管理が一般のお酒についても行なう事ができるようになったという事です。

 この水分管理の結果、安定した酒質と年々向上してゆける技術の積み重ねを手に入れることができ、お客様の期待を裏切らない水尾に一歩近づくことができたのです。

 水尾のバランスの良い味わいはこういった地味なこだわりの作業の積み重ねからできています。まだまだこだわりのお話はたくさんありますが今回はここまでです。次回もこうご期待! (第3話へつづく )


第一話  醸造用水について

 水尾のこだわりについて語るには、やはりまず水について語らねばなりません。なにせ「水尾」の名前もその水の湧く山の名前だし、そもそも「水尾」のはじまりがそこにあるからです。

 私(専務)が東京での研修を終え、蔵にはいってから最初に研究したのが水でした。それまで使っていた井戸水の水質が硬すぎるため、吟醸酒等の製造には不向きだと分かったからです。

 そこでまず、水の加工を検討しました。これは最近では家庭でも使っている浄水器のようなものを使って水をろ過する方法です。半導体を洗うための水の製造装置を作っている某会社より専門家を呼んで加工の方法を試してみました。ところが、何度試しても水の加工はうまくいきません。水の加工は、一部の大きな成分だけを取り除くか、すべての成分を取り除いて純水を作るかの2つの方法しかなく、なかなか酒造りにベストな水質を作ることが出来ないからです。苦労しながら、何度も蔵に足を運んでくれたその専門家の一言が後に「水尾」を生み出す事になりました。

 「しかし田中さん。どうして田中さんはこの山紫水明の地でこんなに水に苦労しなければならないのですかね。」

 確かにそうです。少し山あいに行けば、様々な良水が湧き出るこの地方にいながら、水に苦労するというのはおかしな話です。蔵を移動する事は無理でも水を汲んでくる事は可能じゃないかと考えました。そこで社長に相談したところ「酒造りは道楽じゃない。そんな大量の水を運搬してもコストが合わない。」との厳しい一言。それでもやってみなきゃ分からない、吟醸酒だけでもやろうという事で説き伏せて水を探しに出かけました。

 地元でも話題になっている清水や社長の持っている山の湧き水など思い当たる様々な水を汲み歩きテイスティングし、分析もかけました。おそらく運が良かったのでしょう。数ヶ月で結果が出ました。テイスティングテストでも分析結果でもダントツに一番の評価だったのが現在使用している「水尾山」の湧水です。飲んで甘さを感じるほどの軟水、酒造りに無駄な成分はまったくなく、そして必要最小限の発酵に必要な成分を含む、まさに未来の酒を造るにふさわしい名水に、私はすっかりほれ込んでしまいました。水源を持つ地元の方々にもこころよく承諾をいただき水を分けていただける事となりました。

 その年は吟醸酒、純米酒のみこの水で造りましたが結果がとても良好で、水汲み作業も何とかこなせる事が分かったため翌年より仕込みの全量にこの水を使用するようになりました。今でも年間にのべ80日くらい、片道20km北の水尾山のふもとまで行って、水汲みを行っており、すっかり道楽じみておりますが、酒の評判が上々のため、社長も文句言いません。

 水尾のさわりない後味の良さはこの水の性質によるところが大きいと思います。しかしながらそれだけでは大リーグボール2号の秘密は半分しか分かりません。(わかるかな〜) 水尾の味わいにはまだ、さらなるこだわりが隠れています。  (第2話へつづく )